パスタやデザート、パン・・・。私達が毎日のように食べるチーズは一体、いつごろ誕生したのでしょうか?


●チーズの起源

人が牛を牧畜するようになったのは紀元前8千年ですが、羊や山羊の牧畜はさらに古く紀元前1万年といわれています。
チーズ作りに関しては紀元前3500年頃のギルガメッシュ叙事詩にチーズに関する痕跡が残っていることから、チーズの歴史も数千年以上前から始まっていたとされます。場所はチグリス川とユーフラテス川の間で、現在のシリアあたり。

古代オリエント文明が指すところの「肥沃な三角地帯」と言うこの地はメソポタミア文明が栄え、また聖書で「約束の地カナーン」とも言う、宗教的にも非常に重要なポイント。ビールやワインの起源もだいたい同じ場所です。


●なぜチーズを食べるようになったの?

メソポタミア周辺では当時、野生の麦が自生しており、山羊や羊がそれらを食べるために集まって来て、人間がそれらの動物を囲い込んで原始的な牧畜をはじめました。殺して食べてしまうと「はい、そこで終了」ですが、乳を利用すれば恒常的に食べ物を手に入れることができますよね。それが乳利用の始まりです。
肥沃な三角地帯・・・とはいえ、夏は暑く冬は乾燥し、自然の恵みが限られる厳しい環境です。食べられるものは何でも工夫して食べた・・・乳を利用するようになったのもそうした工夫のひとつだったと思われます。

日本などの東アジアの古代文明でも乳を利用した記録は残っていますが、チーズは日本で伝統的に食べられていたわけではありませんよね?
自然が豊かなモンスーン気候で生きる私達アジアの人間からみて、本来動物の赤ちゃんの大切な食べ物である乳を横取りする行為に対して「そこまでしなくても・・・」という感覚が働いたから、乳利用は広まらなかったとも考えられます。逆に中東では「そこまでしなければ生きていけない」状態だったのではないでしょうか?


●最初のチーズはどんなもの?

現在もモンゴルで食べられる「アーロール」や「ホロート」そして北ドイツの歴史ある「クワルク」
クワルクは水分をきったヨーグルトです。アーロールやホロートはそれを天日干しで乾燥させた保存食。これらがチーズの始まりなのではないかといわれています。
冷蔵設備の充実した現代は牛乳を搾って冷蔵できますが、昔はありません。搾ってすぐに乳は乳酸発酵を始めます。
乳酸発酵がどんどん進み、酸で固まる性質の蛋白質が固まると・・・ヨーグルトのようにゲル状にすっぱくなる。こういうチーズを乳酸発酵による酸凝固のチーズと言います。チーズ発祥の地イラク周辺を境に東方を中心にひろまりました。

一方、同じように古い歴史を持つのが凝乳酵素を使用したしっかり硬いパルミジャーノやペコリーノ。これらは、同じシリア近郊で生まれましたがギリシャ文明の発達からローマに伝わりローマ帝国の広がりと共に、西ヨーロッパに広がります。


●凝乳酵素って何?

これは別名「レンネット」といい、お乳で育つ動物の胃に含まれる酵素です。赤ちゃんがミルクを飲み、しばらくしてから吐き戻したときに、お乳がヨーグルトのように固まっていませんか?液体であるお乳にこの凝乳酵素を加えることで、乳の蛋白質をがっちり固め、しっかり硬いチーズを作ります。昔の水筒は動物の胃袋を利用していましたから、アラビアの商人がたまたま胃袋水筒に乳を入れて旅をし、しばらくして乳を飲もうとしたら塊が出てきた。これがレンネット凝固チーズの起源だそうです。

今でもイラクでは乳酸菌発酵したヨーグルトに似たチーズも、レンネットで固めたしっかり固いチーズも両方食べるそうです。が、発祥の地イラク周辺を境に東のモンゴルやアジアではレンネットのチーズはあまり広まりませんでした。わざわざ胃袋水筒に入れて持ち運ばなくても常に家畜と移動する遊牧生活だったからでしょうか?

反対側の西にレンネットの固いチーズが広まったのは古代ギリシャ文明と共に発展したチーズはその後、ローマ帝国の拡大や進軍と共にヨーロッパ各国へ広まったから。兵士達の大切な食糧だったからです。ローマ帝国行軍の兵士の食糧として「蜜、凝乳、羊、チーズ」とあり、栄養価を大変評価されてたんですね。面白いのはドイツで、ローマ化を拒んだ北ドイツではヨーグルトのようなチーズが。ローマ化を受け入れた南ドイツでは大型で硬いチーズが伝わっています。

古代ギリシャではホメロスの「イーリアス」「オデッセイア」にもチーズは男をたくましく、女を美しくすると書かれています。


●日本ではどうだったのでしょう?

「蘇」や「醍醐」という言葉をご存知ですか?この二つは聖徳太子の時代に大陸から伝わったチーズです。
「蘇」は乳をひたすら煮詰めて固めた・・・あるいは湯葉のような製法で作ったと記録があります。北海道の「ホエーキャラメル」なるものが近いのではないでしょうか?「醍醐」は、「蘇」を熟成させたものだそう。

ホエーキャラメル・・・甘くて美味しいですよね。今のようにスウィーツのない昔の人にとってご馳走だったでしょうね。「醍醐味」という言葉もこの「醍醐」からきているくらいですから。
さらに歴史は下って八代将軍徳川吉宗の時代に、インドから牛を謙譲され、「白牛酪」という乳製品を作ったと記録にあるものの、一般大衆にまで普及することはありませんでした。ですが、明治時代に入ってから京都府の牧場が「牛乳を新たに搾れるものは死すべき命も助かるほどの効能あり。精を強くし、顔色を良くし、皮膚を肥し、五体を健康にする」と広告をうっていますし、あの福沢諭吉も「牛乳の用法を世に広めんと・・・」とおっしゃっています。
歴史の中でなかなか一般に浸透しなかったチーズは文明開化で西洋文化を取り入れ始めた日本の目玉商品であったのではないでしょうか?

日本人が今のようにチーズに親しむようになったのは、かれこれ40年ほどです。万博、バブル。イタ飯やボジョレーヌーボーが流行ったことがきっかけとなったようでバラエティ豊かなプロセスチーズがどこのスーパーでも並ぶようになりました。

秋の夜長・・チーズの歴史を知ったうえで、様々なタイプのチーズを楽しんでみてはいかがでしょう?

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