この曲は、いかにもコール・ポーターらしいビタースイートな「さよなら」の歌。初めは恋の気持ちを「よくあること」と言いながら、終わりでは失恋の別れを「よくあること」と歌う曲。心に痛みを感じながら「よくあること」と言い聞かせています。
ジャズエイジ、享楽のパリ、上流社会、ロスト・ジェネレーション、バイセクシュアル・・・アメリカン・ポピュラー・ミュージックの中で、作詞作曲を兼務する稀有なソングライター、コール・ポーター、彼のレッテルは数あれど。非英語圏のパリ生活の後、彼は母国語に対する愛情と理解が深まり、作詞の力が格段に高まっています。

語呂が良くて、色っぽいコール・ポーターの歌詞。「可愛い」とさえいえるアイラ・ガーシュインの清潔な詞と対極にある「セクシャルな、ほのめかし」や、「ダブル・ミーニング」な複雑な言葉づかいの巧みさが、本当に素敵です。
“Just One of Those Things” 邦題『よくあること』。1935年のブロードウェイ・ミュージカル『”Jubilee”ジュビリー(聖なる年)』の曲。でもこのミュージカルでは「ビギン・ザ・ビギン」のほうが有名かも。1951年にドリス・デイが『ブロードウェイの子守唄』で取り上げリバイバル・ヒットし、1954年『ヤング・アット・ハート』で彼女との共演のシナトラが歌い、またもやシナトラの定番になってしまった。

“Jubilee”とは、「記念祭」とか「祝典」と言った意味で、「旧約聖書」「レビ記」の第25章で「ヨベルの年」と記され、25年または50年に1度の周期で行われる記念日・祝祭・祝年などを意味する。例えば、結婚25周年に祝われるのが「シルバー・ジュビリー」、結婚50周年に祝われるのが「ゴールデン・ジュビリー」だ。
大金持ちの家系のコール・ポーターとその友人、脚本家で演出家のモス・ハートは、お互いの家族や友人、仕事仲間を引き連れて、1935年に豪華客船「フランコニア号」に乗り、4か月半の世界一周の旅に出た。旅の目的の一つは、2人で新しいミュージカルの構想を練ろうということもあった。イギリスではちょうど国王ジョージ5世の座位25周年記念祭典、「シルバー・ジュビリー」が挙行された年であり、それをヒントにモス・ハートが脚本を、コール・ポーターが音楽を書いてヨーロッパの架空の王室を皮肉交じりに描いたミュージカル”Jubilee”が出来上がった。

この歌詞には、色々な物語を引き合いに出して、恋を単純に、そして皮肉交じりに「よくあることだ」と歌っているのだけれども、少しみてみよう。

まず、バースの最初では「ドロシー・パーカーがボーイフレンドと別れた時、”じゃ、これでごめんあそばせ!”と告げたように・・」とある。この、ドロシー・パーカーとは、1920年代、いわゆる「ローリング・ツウェンティーズ」に活躍したユダヤ系女流作家で、株屋を夫にしたがすぐに別れ、男遍歴が絶えなかった。コール・ポーターは、「よくあること」の例に、インテリのくせに惚れっぽい彼女の奔放さを引き合いに出したのだ。彼女は、”The Big Broadcast Of 1936 ” の挿入歌 “I Wished On The Moon”の歌詞も書いている。

次に、「コロンブスが援助を断られた時、”イザベル、結構ですとも!”と応じたように・・」とあるが、これはやはりクリストファー・コロンブスのことである。彼は「黄金の国ジパング」を夢見て1492年に航海に乗り出し、新大陸と意識せぬアメリカを発見した。その為の資金は、結果的にスペイン女王イザベル一世に出してもらったのだが、それまで申し入れを何度も断られた。その途中経過を歌っている。

3番目に引き合いに出されているのは、「アベラールがエロイーズに”一行でもいいから俺に手紙を書くのを忘れるなよ!”と歌ったように・・」である。アベラールとは、フランスの哲学者、神学者で中世神学における論客として知られたピエール・アベラールのことだ。

このアベラールは、教会の偉い人に頼まれ、その姪で若き佳人エロイーズの家庭教師をすることになった。ところが、あろうことか二人は恋におち体の関係を持ち、アベラールは彼女に子供を産ませてしまう。激高した叔父は暴漢に襲わせて彼を去勢し、2人を別れさせる。しかし、アベラールもしたたかで、彼女との間に交わした膨大な「愛の書簡集」を発行した。

最後の節で引き合いに出したのは、最も有名な恋物語。「ジュリエットがロメオの耳元で”どうしてあなたは真実を観ようとしないの?”と叫んだように・・」だ。シェイクスピアの大悲劇「ロメオとジュリエット」で、ジュリエットとの情愛を引き裂かれたロメオは、真実をよく調べもしないで噂のみを信じ、ジュリエットが死んだものと思い込み、服毒自殺してしまう。それを知ったジュリエットもまた、自分の胸をついて彼の後を追う。格調高い作品だが、コール・ポーターには茶化されてしまっている。

そして、ようやくコーラスへと入り、「これはよくあることのひとつに過ぎないのさ 唯の狂ったダンのようなもの 何時もなっているベルと同じこと よくあることのひとつにすぎないのさ」と歌っている。恋とは皮肉で、「よくあること」なのだ。



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