筆者の友人で30歳になったばかりのMさんという独身の女子がいます。このMさん、数年前にNHK総合テレビの生放送バラエティ『生さだ』(正式番 組名は『今夜も生でさだまさし』)にハガキを書いて送り、見事にさだまさしさんに読まれたという輝かしい経歴を持つインテリアコーディネイターのタマゴであります。

高校時代からの音楽仲間であった吉田正美(現・政美)さんと結成したフォークデュオ『グレープ』のリードヴォーカルとしてさだ まさしさんがメジャーデビューしたのは1972年。以来、まるで短編小説を読んでいるかのような錯覚に陥らせてくれる瑞々しい感性の楽曲の数々を1980 年代あたりまで精力的に紡ぎつづけ、その後は小説家としてもタレントとしても多岐にわたる才能を発揮するさだまさしさん。1986年生まれのMさんがさだ まさしさんの素敵な短編小説のような楽曲の主人公女子たちをどれくらいご存知か、嫌味なジイさんはMさんにぜひ知っておいてほしいヒロインたちの存在を 語って、次に送るハガキではさださんの楽曲の感想で読まれてほしいものだという気持ちから、このコラムを贈りたいと思います。


【私が童話作家になろうと思ったのは あなたにさよならを言われた日(『童話作家』より)】

恋 人から別れを告げられた女子が、「童話作家になろう」と決め、実際に童話作家となってそこそこの暮らしを手に入れたけれど、やっぱり恋人の面影が忘れられ ない。3分45秒の間だけ思いっきりセンチメンタルにさせてくれる珠玉の掌編です。グレープ時代に作られた曲でありファンの前で初めて演奏されたのもグ レープのラストコンサートという楽曲で、「グレープのヴォーカル・さだまさし」から「ソロ・シンガーソングライターさだまさし」への移行期を代表する名曲 です。


【卒業したら君は郷里(さと)へ帰って小さな子供の先生になるといった 言葉通りに子供に囲まれた君の笑顔の写真が今朝届いた(『歳時記<ダイアリィ>』より)】

女 子が羨ましく思えることの一つに、「保育士」さんという天職がある点が挙げられます。もちろん男性でも保育士にはなれますが、やっぱり何かが違うように思 えてしまうのです。卒業を機に「僕」と別れて郷里へ帰った「君」は、言ってた通りに保育士さんになり、地元の男性と結婚するという便りが届きます。さだま さしさんの代表的なコンセプト・アルバム『夢供養』のオープニング部分に位置する重要な楽曲は、甘く切ない青春の記憶を歌った短編小説そのものです。


【あなたは教えてくれた 小さな物語でも 自分の人生の中では 誰もがみな主人公(『主人公』より)】

こ の曲の主人公は一聴すると男子のように聴こえますが、よーく聴くと女子が「自分の人生の中では自分が主人公なんだ」と自分に言い聞かせている歌であるよう に思えます。1979年のNHK・FMライブの音源が『つゆのあとさき』とともにユーチューブにもアップされていますが、『主人公』もこのヴァージョン が、さださんの若い頃の澄んだ歌声を聴くことができて、一番です。


いつの頃からでしょうか。「社畜」とか「ワーキング・プア」と かいった言葉が日常的に使われるようになり、正社員も非正社員も全人格を自分以外の「何か」に捧げるようにして生きなければ生き辛い世の中が出来上がって しまっていた。「あんたなんか、この世の“脇役”なんだよ」みたいな心ない言葉が、ネットの世界を中心に恥も外聞もなく踊るようになってしまいました。さ ださんがその自伝的青春小説ともいえる『ちゃんぽん食べたか!』で描いたような、「貧しいけれども自由な日常」はすっかり失われてしまい、残ったのは「睨 まれない」ように同調しておけばとりあえずメシを食いっぱぐれることはないだろうという風潮のように見えるのです。

でもですね、忘れたく ないことは、女子が「わたしの人生の中ではわたしが主人公よ」と言えるようになるまでには、先人たちの並々ならぬ努力の積み重ねがあったということです。 そもそもは18世紀にイギリスのメアリ・ウルストンクラフトという女性の思想家が保守思想の提唱者であるエドマンド・バークに対して「機会の均等化によっ て個人の才能が発揮されてこそ社会の成功が実現する。上層階級の特権は時としてその邪魔をする」という主旨の主張をし、多くの人々魅了。その後イギリスの 哲学者ジョン・スチュアート・ミルやスウェーデンの女性思想家エレン・ケイらが「女性も主人公なのだ!」の思想を受け継いで行きます。

そ ういう考え方は海を渡ってわが国にも届き、津田梅子、成瀬仁蔵・広岡浅子、平塚雷鳥、新渡戸稲造、山川菊栄、市川房枝といった人たちが頑張ってくださった おかげで、「男の従属物などではない、主人公としての女性」という今では当たり前も当たり前な概念が確立してきたのです。

そんなわけでM さん、こんど『生さだ』にハガキを送るときには是非、「もうすぐ私の誕生日でーす!」というネタではなく、「さださんの曲に登場する女子の主人公たち」と かの話題で書いてみてください。ちなみにMさんのハガキが読まれて以降、『生さだ』では公平を期す意味で「もうすぐ私の誕生日でーす!」ネタのハガキにつ いては、取り上げることを自粛しております。




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(女子のお悩み解決コラム -WomanNews ウーマンニュース-)