筆者のように1970年代の後半に青春時代のピークを迎えた世代の者にとっては、サザンオールスターズといえば最初に持った印象は“コミック・バンド”であり、桑田佳祐さんといえばデビュー当初の理解では“今どき珍しく春歌(しゅんか)を歌う奇人・奇才”でした。女子からの人気という面ではツイストの世良公則さんや原田真二さんといったアイドル的な要素を兼ね備えた人たちに遠く及ばなかったことを記憶しています。

その桑田さんとサザンオールスターズがその後のわが国のポピュラー音楽界において、2000年の『TSUNAMI』や2011年の『Let’s try again』などの楽曲で、傷ついた国民の心を癒し、励ましてくれる本物のロックスターへと進化して行ったことは、同じ時代を生きてきた者の1人として誇らしい限りです。

今回は、そのような素晴らしい桑田佳祐さんとサザンオールスターズの数々の楽曲の原点が、1970年代の後半から1982年頃までにかけての桑田さんとサザンにとってのプロとしての音楽活動初期の段階で、既に確固たるスタイルを確立していたというお話しをしたいと思います。

【『TSUNAMI』の原曲と言ってもさしつかえない『Ya Ya(あの時代を忘れない)』

2011年3月11日に発生した東日本大震災で甚大な津波被害が発生して以降は、タイトルが“TSUNAMI”だという理由からテレビ・ラジオでほとんどオンエアされなくなったラブソングの名曲『TSUNAMI』。オリコン歴代シングルランキングで第3位に食い込むこの楽曲はJ-POPの歴史に燦然と輝く大ヒット曲でありながら、2016年の今日に至るまでサザンオールスターズ並びに桑田佳祐さんがライブではけっして演奏しない幻の1曲となりました。

被災地では「津波でなくなった人たちのことをいつまでも思い出してもらうことにもつながるのだから、もうオンエアを解禁してもよいのではないか」という声が圧倒的多数だと、聴いています。が、桑田さんがこの曲を二度と再び演奏しないことには、本当の理由があると、筆者は考えています。

その理由とは、「同じラブソングで、音楽的に同じコード進行の曲ということであれば、『TSUNAMI』の発売より18年も以前に世に出ていた『Ya Ya(あの時代を忘れない)』という自信作があるので、そちらの方を聴いてほしい。わざわざ『TSUNAMI』というタイトルがついた曲の方を演奏することによって、津波で大切な人を失った被災者の人たちの心を逆なでする必要などない」という、桑田佳祐さんの配慮とプライドが見て取れるのです。
「とびきりすてきな恋などもしたと思う 帰らぬ思い出 Time goes by」<1982年作品『Ya Ya(あの時代を忘れない)』より>

終わった恋と帰り来ぬ青春への未練と郷愁の感性は、『TSUNAMI』における「思い出はいつの日も雨」という感性に、完全につながっています。さらに、サザンオールスターズがライブで『Ya Ya』をラストに歌うことが多い事実を素直に見つめると、桑田さん自身の気持ちの中に、「最上のラブ・バラードだったら『Ya Ya』を聴いてほしい」という思いがあるようにみえてならないのです。

【『Let’s try again』の地域社会重視姿勢は『涙のアベニュー』『恋人も濡れる街角』から続くもの】

東日本大震災の発生後、桑田さんは「自分には何ができるのか。何をするべきなのか」を考えたといいます。その結果として『被災地という「地域社会」が元気を取り戻すための“作用点”にならなければいけないのではないかと思うに至った』という主旨のことを、桑田さんはその後折に触れて語っています。

2011年5月に「チーム・アミューズ!!」のシングルとして、同年8月には桑田さん自身のヴァージョンとして発売された『Let’s try again』は、実はプロとしての活動当初から桑田さんの中に根強くあった“地域社会重視姿勢”が具現化されたものだと、筆者は思っています。

「胸躍る大好きな舞台(ステージ)に みんなで駆け上がれ 新しい夜明けを信じて 今こそ立ち上がれ!!」
「夢溢る笑顔の人生を もう一度取り戻せ 泣き濡れた日々や出来事を 永遠に忘れない」

『Let’s try again~kuwata keisuke ver.~』のこの言葉は、被災地という限定された地域社会に生きる人たちだけに向けて歌われているがためにかえって被災地以外に生きる人たちからの共感も呼ぶという、一見すると相矛盾するような効果を生んでいます。実はコレ、1980年作品の『涙のアベニュー』や中村雅俊さんに提供した1982年作品の『恋人も濡れる街角』の成功で既に確認済みの効果だったのです。

「横浜じゃ今 乱れた恋が揺れる」「ああ ときおり雨の降る馬車道あたりで待っている」(『恋人も濡れる街角』より)
「横浜ちょいと程よくな漂うだけの街」「いつかふたりで流したGarden path」(『涙のアベニュー』より)

こういったフレーズは、根っからの神奈川県民で横浜をこよなく愛する桑田佳祐さんならではのものでありながら、その真っすぐな“地域愛”の姿勢が神奈川以外の土地の人からの共感を呼び、この2つの楽曲は桑田さんのプロ活動初期を代表する作品として評価が定着しています。

“ある地域社会を愛する思いは、その地域以外で暮らす人たちの共感をも呼ぶ”

桑田佳祐さんとサザンオールスターズはそのことを私たちに教えてくれます。



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