「小さなNY」と言われるほど、多民族が入り混じって暮らすシドニーの街で、私はとても面白い子を見つけた。同じ日本人の中ではずば抜けて面白い子だった。もちろん、他の国の人達を入れてみても、ずば抜けて存在感のある、おもしろい子だった。

彼女の名前は、マリといって、とても歌が上手く日本に居た時はずっとオールディーズバーの歌手をやっていたそうだった。彼女はおそらく絶対音感も持っていた。

英語を覚える為に、私はシドニーではあまり日本人の友達を作らないことに決めていたのだけれど。彼女があまりに面白く、興味深かったので、彼女とは友達にならざるを得なかった。私は今、初めて彼女の家に遊びに来ている。

大きな一軒家で、なんと30人が共存しているという奇妙な家だった。
30人・・・?30人って、30人?と、驚きながら、廊下を歩いた。

一部屋に3~5人×8部屋くらい?が二段ベッドを使って生活しており、キッチンとリビングとパソコンルームはみんなでシェア。壮絶な家だ。歩いているだけで、知らないひとがガンガン話しかけてくる。

彼女の部屋にお菓子をとりに行き、もう一度部屋を出て中庭らしき場所に出た。そこに行くときに通ったキッチンは、それまた壮絶な感じだった。まあ、30人が自由に使うならそうなるだろう・・。

「すごいでしょ?びっくりした?」マリに聴かれた時、私は完全に呆気にとられていた。
「え、うん・・。確かにすごいね。びっくりした。」「うるさいけどね、人がいっぱいいて面白いよ」「そっか、そうだろうね。この中で生活しているなんて、すごいよ」「あはは。そうかなあ?あんまり何も考えなきゃ平気だよ~」彼女はあっけらかんと笑っていたが、私は彼女の強さに心底驚いていた。普通の日本人の感覚では、とてもこの家には住めないだろう・・。やっぱりこの子は強くて面白い。

「マリちゃんちは、大家族?」「え、ううん。違うよ1マリは一人っ子!」意外な答えに驚いた。寂しがり屋・・、なのかもしれないな。と思うと、なんだか愛しくも感じた。

「あ、ねえ。それで?一緒に歌おうって何?何を一緒に歌うの?」マリが首をかしげた。

彼女の声があまりに綺麗で印象的だったので、私が「今度一緒に歌おう」と彼女を誘ったのだ。それは、自分にとっても意外な一言だった。私は、実は日本でずっと歌を歌っていて、それを辞めようと思ってシドニーに来ていたのだ。なのに、こちらで、素敵なジャズボーカリストの先生に偶然出会ってしまい、音楽の道からはやはり逃れられないことを知った。そして恐々と再びその先生の元でレッスンを受け、歌い始めていた。

そんな中で、私はマリと出会い、何か一筋の光を見出していた。

「あたし今さあ、ジャズの先生のとこでレッスン受けていて。マリちゃんの声凄くいいし、なんだか、ふたりでハモって歌えたら楽しそうだなって思ったの。」自分が彼女に「今度一緒に歌おう」と声をかけた時の、素直な気持ちだった。だって、ただ本当にそう思って、自分でもよく分からないままそう言っていたのだ。

「へえ、ジャズって全然分かんないけど。二人で歌うのは楽しそう。」「うん」
「とりあえず、どんな曲をどんな風に歌えばいいの?」「とりあえずこれ聴いてみて」
私は、マリにいくつかの音源を聴かせた。わたし自身も、誰かと一緒に歌う。という経験があった訳では無い。でもなぜだか、彼女とは一緒に歌いたいと思ったのだ。

とりあえず、何曲か候補を上げて考えた挙句、私たちの1曲目に選んだのは・・。

“They can’t take that away from me” (邦題:誰にも奪えぬこの想い)という曲だった。
私は、エラフィッツ・ジェラルドとルイ・アームストロングがデュオで歌うこの曲の録音が大好きだったので、これが1曲目になったのがとても嬉しくて簡単にワークアウトできた。私が、歌詞を書いてパートを振り分けハモリを付け、マリはそれを完璧に覚えた。

なんともスムーズに、そして簡単に、私たちのボーカルデュオは完成した。
やはり彼女とはとても相性が良く、ふたりとも何のストレスも抱えずにどんどん仲良くなった。会う度に親密になり、歌う度に息が合い、話せば笑い転げた。やはり私は、日本から遠く離れたこのシドニーの地で、最高の相方を見つけていたのだ。人生は不思議だ。



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