先日、知り合いの30代の女性から相談をうけました。筆者がビジネスマナーのアドバイザーとしてサイドからお手伝いしている郊外のカルチャー教室の生徒さんです。彼女は既婚者ですがお子さんはいらっしゃらず、とある会社で契約社員として営業事務の仕事に携わっている人です。

「聞いてくださいよ。わたしの居る職場って、女の人のことをいろいろ呼び分けるんですよ。わたしは結婚してても子どもがいないから『○○ちゃん』、結婚してて子どもがいる女性は普通に『△△さん』、子どもがいて比較的年齢が高い女性のことは『おかあさん』って呼ぶんですよ! これってセクハラじゃありません?!」

ということなのでした。


【彼女が指摘するような行為のことを「ジェンダーハラスメント」といいます】

彼女が言うように、こういった行為が「ハラスメント」であることには、疑念の余地はありません。ですが、性差による差別意識に起因したハラスメント行為には、こういったケースのように「セクハラ」とは別のハラスメントがあり、職場にいる女性にたいしてその出産経験や年齢などで呼び方を変えたりする行為のことを、「ジェンダーハラスメント」といいます。

ジェンダーハラスメントという概念はセクハラ(正しくはセクシュアルハラスメント)の概念と重なり合う部分もありますが、厳密にいうと別物です。セクシュアルハラスメントが女性(又は男性)への性的要求に起因したいやがらせ行為であるのに対し、ジェンダーハラスメントというのは女性(又は男性)のことを思想的に敬意をもって思っていないことに起因するいやがらせなのです。違う表現で言うなら、セクハラとはある種の性的欲求と差別意識が結びついたところからくるハラスメントでジェンハラ(ジェンダーハラスメント)は相手の性を見下したその社会における文化的・思想的理念がそうさせるハラスメントだということです。

【日常よく目にするジェンダーハラスメントの実際例】

こういったジェンダーハラスメント行為は、女性(又は男性)にたいして年齢や経験によって呼び方を変えること以外でも、日常的に職場のいろいろな場面で見られます。たとえば、

・コピーとり、書類整理、コーヒーを入れるなどの雑用的な仕事を、女性社員だけに半ば強制的にやらせる。

・販売業などの現場でお客と対面する接客業務をあえて女性社員だけにやらせる。

・重い荷物や大きな商品などを運ぶ仕事を男性社員だけにやらせる。女性社員が申し出てもやらせない。

・男性社員が残業を拒むと「男のくせに残業もしないで帰るのか」と罵(ののし)る。

・意欲をもって配置転換を希望したのに「その仕事は女の子には無理」と言われやる気を喪失させられた。

読者のみなさまの職場でも、こういった場面にはけっこう頻繁に出くわすのではないでしょうか。

【男女雇用機会均等法もジェンハラにはやや甘い】

このようなジェンダーハラスメントから、わが国の法律は働く人を守ってくれるようになっているのでしょうか。男女雇用機会均等法(略称:均等法)はその第11条で「職場における性的な言動」について事業主の措置義務を定めていますが、この場合の性的な言動とはsexの方の性的な発言や行為のことで、gender(ジェンダー)の方の性のことではありません。
つまり、「性的な言動」というセクハラ行為は均等法で規制されているものの、「性別に関係する不快な言動」というジェンハラ行為については、均等法で直接的に規制されているわけではないのです。
国家公務員の場合は人事院規則という公務員の法律のようなものによって、「女のくせに」「男のくせに」「○○ちゃん」といったようなジェンハラな言葉遣いを禁止していますが、民間で働く人にはジェンハラを明確に規制してくれる法律がわが国には今のところ存在しないというのが現実です。

<参考:『職場のジェンダー・ハラスメント』 | 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)>

【された側の人が「ジェンハラだ!」と感じれば、それはジェンダーハラスメント行為なのです】

このようにわが国の法律がセクハラに対しては厳しい態度で臨んでいても、ジェンハラに対してはもうひとつ煮え切らないというか、はっきり言って「甘い」作りになっているのには、多分に日本の風土や文化といったものが影響していると考えられます。つまり、あんまり事細かに法律で規制してしまうとかえって職場の人間関係がぎくしゃくしてしまうのではないかという懸念が背景にあるように思うのです。

でも、それはちょっと違います。何故ならば、ジェンダーハラスメントの行為は、「○○ちゃん」とか「女の子(男の子)」などと呼ばれた側の人が不快に思い、「ジェンハラだ!」と感じれば、呼んだ側が親しみを込めて言ったつもりであっても、やはりそれはジェンハラ行為となるからです。

「○○ちゃん」とか「女の子(男の子)」とか呼ばれても、呼ばれた側の人がジェンハラだとは全く感じない場合に限って例外的にそれはジェンハラになりません。純粋な仲間意識や親愛の情から発せられた同じ高さの目線からの言葉なので、呼ばれた人の方が不快に感じたりはしないのです。内側に差別意識や“上から目線”が潜んでいる人に「女の子(男の子)」「○○ちゃん」と呼ばれると、呼ばれた人は必ず不快に感じるものです。

そういう意味では均等法も、職場の人間関係を円満な状態で保つためになどと余計なことは考えずに、ジェンダーハラスメントに該当する言動はセクシュアルハラスメント同様、事業主の措置義務を設けた方がいいのではないかと、知り合いの女性の話しを聞いて、思った次第です。


「ありがとうございました。話しを聞いていただいて、すっきりしちゃいました!」
知り合いの女性は元気よくそう言って、人ごみの中へ消えて行きました。なんでも、この後は旦那様と買い物デートだとのことです。

「気持ちが軽くなってよかったね。○○ちゃん」
心の中でそうつぶやいた筆者は、「あっ!これ、ジェンハラだ!」と気づいて思わず冷や汗をかいたのでした。




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