2015年10月30日付の厚生労働省(以下「厚労省」)発表によると、2012年3月に中学・高校・短大等・大学を卒業して就職した人のうち中卒者の65.3%、高卒者の40.0%、短大等卒者の41.5%、大卒者の32.3%が就職して3年以内に会社を辞めていたことがわかりました。

この数字って、「多い」ですよね?企業の人事担当者たちはこういった傾向を「七五三問題」(中卒で7割、高卒で5割、大卒で3割が3年以内で辞めるため)と呼んで「最近の若者は我慢が足りなさ過ぎる」と嘆いているようですが、果たして本当に若者たちの我慢の足りなさだけのせいでしょうか。
この統計では離職率の男女別データまでは公表されていませんが、筆者は「念願の正社員として入社したけれども入ってみたらその会社がブラック企業だった女子」に注目して、この七五三問題の実態を推察してみました。
<参考:『新規学卒者の離職状況に関する資料一覧』厚生労働省(2015年10月30日発表)>

【単身女性が不幸な社会に未来はない】

2014年1月に放送されたNHKクローズアップ現代『あしたが見えない~深刻化する“若年女性”の貧困~』と、続編であるNHKスペシャル『調査報告 女性たちの貧困~“新たな連鎖”の衝撃~』(2014年4月放送)は、今でも記憶に新しいくらいの大反響を呼びました。

「働く単身女性の3人に1人が、年収114万円未満……」

わが国の将来を大きく左右する単身女性たちの貧困という深刻な問題を提起したこの2本の番組は、その後オンエアされなかったエピソードなども盛り込んで『女性たちの貧困』というタイトルで書籍化されました。

この本では四年制大学を卒業して観光業の会社でインフォメーション業務担当の契約社員として働く愛さんという20代前半の女性のその後などを追跡した内容が書かれているのですが、筆者が注目したのは愛さんの高校時代からの親友で大学卒業後カラオケ店に正社員として入社したマキさんという女性の証言の方でした。
<参考:『女性たちの貧困“新たな連鎖”の衝撃』(2014年NHK「女性の貧困」取材班、幻冬舎)>

【正社員なのに、将来のために自分に投資するお金も時間もない。これといったキャリアも身につかない】

マキさんは内装業を営む両親のもとで育ったのですが、日本経済の内需の環境は中小零細規模の内装業者にとってはもう何年も厳しくなる一方で、高校に入学後はマキさん自身がファミリーレストランでアルバイトをして稼いだお金で一切の必要資金を賄ってきたそうです。

両親の苦労している姿を見てきたマキさんは、「四年制大学を卒業して企業に正社員として就職さえすれば、両親に楽をさせてあげることもできる」との思いで大学に進学し、貸与型の奨学金とカラオケ店でのアルバイトで学費や生活費を賄いながら卒業して、雰囲気に慣れていたカラオケ店に正社員として就職しました。

ところがいざ就職してみると、正社員であるにもかかわらず仕事はアルバイト時代と全く変わらないどころか1日12時間以上の労働を週に5~6日やって給料は手取りで月15万円あるかないか。ボーナスは無し。休日は月に5日のみ。唯一正社員を実感できる点といえば会社の寮に月3万円の家賃で住むことができる点だということですが、それでも600万円以上残っている奨学金の未返済残高が重くのしかかり、将来のために自分に投資するお金も時間も作れず、企画やシステム開発といったキャリアが身につく業務をさせてもらえるわけでもない。「ひょっとして非正規の方が割が良いんじゃない?」と疑ってしまうような待遇で、ただただ疲労感だけが残る日々が過ぎて行くというわけです。
この体質の会社では、おそらく辞めるときでもうまいことを言って「退職金は払えないよ」で終わるような気がしてならない、ということですね。

【厚労省は「景気が良くなりキャリアアップのための転職が増えたのでは」と分析してますが、本当でしょうか?】

このマキさんのような例を踏まえたうえで冒頭の「七五三問題」を考えたとき、企業の人事担当者たちが言うような「今の若い者は我慢が足りなさ過ぎる」という評価は、果たして正当なものなのでしょうか?
また、厚労省が自己分析しているように「景気が良くなったために、キャリアアップのための転職が増えたせいで3年以内離職率が高い数字になったのではないか」といった説も、信じてよいものでしょうか?
筆者はいずれも「NO」ではないかと考えています。

【ブラック企業に正社員で就職してしまった女子たちの汗と涙と努力が限界に達した時間が「3年」だった】

マキさんが就職したカラオケ店のような会社を、典型的な「ブラック企業」といいます。この会社は1日の労働時間(8時間以内)についても1週間の労働時間(40時間ないし特例措置対象事業においては44時間以内)についても、労働基準法第32条に違反しています。さらに、法内超勤(1日の労働時間が8時間以内での残業代)手当も時間外労働(1日で8時間を超える分の残業代)手当も払われていない疑いがあり、これも労働基準法の定めに明らかに違反しているものなのです。
<参考:『時間外労働の限度に関する基準』(厚生労働省)>

我慢が足りないどころか、マキさんたち「期せずしてブラック企業に入社してしまった女子たち」はそれでも奨学金返済のことがあり、(事実上内装業を廃業状態といったような)実家のこともあり、勢いですぐに辞めてしまうことはせず我慢に我慢を重ねて、まずは正社員として入社できた会社で働きながら、それこそ厚労省が言うように「キャリアアップのための転職がしたい」と願いながら頑張ってきたのだと思うのです。
でも、その涙ぐましい努力と我慢も3年が限界だったというのが「七五三問題」の真相なのではないでしょうか。

【奨学金を借りた既卒者の8人に1人が滞納または返済猶予】

ある調査によると、2014年10月の時点で「奨学金を借りた既卒者の8人に1人が滞納ないし返済猶予の状態」になっているということです。この数字は、厚労省が分析する「景気の回復でキャリアアップのための転職が増えたために3年以内離職率が高水準になっている」という分析と、矛盾します。
たしかに筆者の周りでも、20代の男子にはキャリアアップのための転職が果たせた人がある程度の人数いますが、女子にはあまり見当たりません。とりあえずブラックな会社をいったん辞め、奨学金の返済を猶予してもらいながら資格の取得などを目指している人の方が目立ちます。

明治時代、福沢諭吉という思想家がいて、当時のわが国で女性が自立するには「洋裁の技術を身につけるのが早道」と説き、その影響もあって日本中に洋裁を学ぶ学校が設立されました。今ある女子大学や女子短期大学の多くは、このときに全国規模で創設されたものです。福沢のこの提案は、当時の日本女性が手に職をつけ経済的に自立するのに一定の成果をもたらしました。

今回は分析的なコラムになりましたが、今後また「それでは現代の女性が経済的に自立し、安心して結婚も出産もできるようになっていくためにはどのような方法があるか」といったテーマのご提案をさせていただきたいと思っております。単身女性が不幸な社会に未来などないのですから。




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(女子のお悩み解決コラム -WomanNews ウーマンニュース-)