皆さんはJ-POPがお好きですよね?筆者も大好きです。今このコラムを読んでくださっている皆さんでしたら、どんなアーティストがお好きなのでしょうか。
セカオワ?miwa?Superfly?西野カナ?ドリカム?どのアーティストもみなそれぞれに素敵ですね。

ところで、今のように包括的なJ-POPという音楽のジャンルが形成される前に、1970年代から1980年代前半にかけて起こった「ニューミュージック」というムーブメントがありました。フォークソングと、ビートルズ風のメロディーラインのきれいなロックの流れをくんだ、歌謡曲よりも洗練されたシンガーソングライターの自作自演を基本とするポピュラー音楽のムーブメントのことです。

今回は、今のJ-POPの礎(いしづえ)を築いてくれたニューミュージックのアーティストたちの多くが、「セレブ」でも「大衆」でもなく、(今のわが国からは消滅してしまった言葉なのですが)「中産階級」の子どもたちだったために、Jポップにはある種独特の「知的感性」が受け継がれているというお話です。

【J-POPの前身「ニューミュージック」のアーティストたちは、その多くが「中産階級」の子どもたちだった】

1972年から1973年頃にかけて、わが国のポピュラー音楽界には「革命」が起きました。
女性では荒井由実さん(今の松任谷由実さん。愛称ユーミン)、男性では財津和夫さん率いるチューリップというバンドが登場して、それまでのややオジサン・オバサン臭い歌謡曲や演歌とも、メッセージ性が強すぎてちょっと鼻につくフォークソングとも違う、洗練された楽曲を立て続けに発表し始めたのです。
その流れは、それまでフォークや歌謡曲の範疇にあってこつこつと活動してきた人たちをも巻き込み、男性なら小田和正さん率いるオフコース、さだまさしさん率いるグレープ、松山千春さん、谷村新司さん率いるアリス、桑田佳祐さん率いるサザンオールスターズ、世良公則さん率いるツイスト、原田真二さん、Charさん、小椋佳さんなどなど。
女性では竹内まりやさん、杏里さん、太田裕美さん、八神純子さん、中島みゆきさん、久保田早紀さん、五輪真弓さん、谷山浩子さん、小室みつ子さんなどなど。才能に溢れたミュージシャンたちが続々と台頭してくる導火線となったのでした。

そんな彼ら・彼女らの多くには、「生まれ育った環境」という点で、ある一つの共通点があったのです。それは、「国会議員の子や高級官僚、大企業経営者といったいわゆるセレブリティ-の子でもなく、そうかといっていわゆるごく一般的なサラリーマン家庭の子どもたちというわけでもなく、さきほどちょっと申し上げた“中産階級”の子どもたちが多かった」という点です。

【中産階級とは何か】

それではその「中産階級」という(皆さんにとってはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが)ものは、どういったものなのでしょうか?日本大百科全書(ニッポニカ)の解説を参考にしながら筆者なりにまとめてみます。

中産階級とは、もともとは中世西欧社会の支配階級であった「貴族」に対して台頭した都市における商工業者・自営業者のことを指しますが、わが国においては特に戦後、民主化された社会にあって高度経済成長期から1990年代初頭のバブル経済の崩壊期までの日本の経済と文化の推進力として機能した中小企業主・商工業自営業者・自営農民・ならびに自営の専門職従事者(医師・弁護士など)からなる、中小規模の生産手段と中小規模の土地を所有した小市民層のうち比較的生計が安定した部分の人たちのことを指します。
伝統芸能に携わるセレブリティ-の芸能人や大企業経営者などが、資産規模では中産階級をはるかにしのぐにもかかわらず公的な補助金や税制の有利さ等にその地位が支えられてもいるため権力や権威に対して従順であるのと対照的に、中産階級は一般庶民の顧客を「お得意様」として持っているため大地に根が張っており、セレブリティ-びいきの権力や権威に対しては反骨的な自立の気風を持っているのが特長です。
概して勤勉で勤労意欲に富み、精神構造は個人主義的で日常重視の傾向があり、勤勉さの表れとしての「知的感性」が研ぎ澄まされています。極端に豊かでも極端に貧しくもなく戦後日本の豊かさを象徴する存在の階級でしたが、資本主義の発展段階にともなって現在のわが国においては絶滅し、金利生活者・不動産賃貸収入生活者・正社員階級・非正規労働者階級・セレブリティ-・プレカリアートといった階級に分散いたしました。
<参考:『日本大百科全書(ニッポニカ)』の「中産階級」の項>
<参考:『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス・ヴエーバー(大塚久雄訳)岩波文庫>

【J-POP女子の大先輩たちのルーツ】

それでは本論に入りましょう。今日のJ-POPのアーティストたちの大先輩ともいえる「ニューミュージック女子」の知的感性のルーツについてです。

まず、ニューミュージック女子の王、ユーミンこと松任谷(旧姓・荒井)由実さんは、東京都下の八王子市の呉服屋さんの娘ですが、この「八王子市」というのが重要で、セレブリティ-が住む東京都心や神奈川県湘南地方の一部などの育ちでは、ユーミンの感性は育まれることはなかったのです。ユーミンの感性は中産階級の女子に特有の「普通の庶民の女の子の感性」で、「自然が残り、野性の生き物が今でも生息している郊外」の感性と言えます。だからこそ、スタジオジブリの長編アニメ映画の主題歌にも何度もセレクトされてきたのでしょう。

次に、竹内まりやさん。島根県出雲市の出雲大社近くにある日本旅館の娘さんです。筆者の大学の先輩で1970年代の終わりごろキャンパスで時折お見かけしましたが、残念ながら音楽活動が忙しくなり、中退されました。今のように「グローバル感覚と英語は必修!」と強制される時代が来る前に、自分からすすんで英語とアメリカ文化を楽しんで学んでこられた「中産階級女子」です。

太田裕美さん。埼玉県春日部市でお寿司屋さんと工場を経営していた家の娘さんでした。女子であるがゆえにお寿司屋さんでも工場主でもなく「職業としての歌」を選択した、キャンディーズのメンバーになっていた可能性もあった「男子の心を歌える」中産階級女子です。

中島みゆきさん。ユーミンと並ぶニューミュージック女子の王です。北海道出身ですが商家の育ちではなく、庶民の暮らしとは切っても切り離せない産婦人科のお医者さまを父親に持つ中産階級女子です。ユーミンとはまた違う独特の「知的感性」にあふれた珠玉の名曲の数々を誇ります。

八神純子さん。名古屋の人なら知らない人はいない医療機器専門商社である八神製作所の創業家のお嬢さんです。セレブに近い感じもしますが、その楽曲の世界観は小市民的で親しみやすい中産階級女子です。

そして、原由子さん。権力と権威をおちょくった楽曲を発表しつづけるサザンオールスターズのリーダー、奇才・桑田佳祐さんを静かに支える妻ですが、そのソロ楽曲には半端ない知性を感じさせるものが多く、ニューミュージック女子の隠れた王と言っていいかもしれません。横浜関内駅前の天ぷら屋さんの娘で、典型的な「中産階級女子」と言えます。

【外せない「職業としての歌」を選んだ中産階級男子たち】

ここで、外せない「ニューミュージック男子」についても少しだけ触れておきましょう。

松山千春さんの父親は北海道の足寄町で『とかち新聞』というローカル新聞をたった一人で発行していましたが、千春さんが10歳くらいのときに『とかち新聞』が当時の足寄町長の不正を紙面で取り上げたことでが原因で裁判沙汰となり、また町長の圧力によって新聞の購読者数が激減し、千春少年も納豆売りの行商をして家計を助けたといいます。その裁判は千春少年が中学生のときにとかち新聞の勝訴で結審しましたが、足寄高校卒業時には主席だったほど成績優秀な千春少年は、家の経済的事情から大学進学を断念し、「職業としての歌」を選択しました。一貫して「頑張る庶民」に寄り添う千春さんの姿勢は、こういった「中産階級男子」のもう一つの側面を顕著に表していると言えます。
<参考:『松山千春―さすらいの青春』富澤一誠・著(立風書房)1979年>

小田和正さんは横浜で日本で初めて商店街に屋根をつけた金沢文庫すずらん通り商店街の基礎を築いた薬局経営者の息子で、東北大学と早稲田大学の大学院で学んだ建築学の修士でありながら、「建築界にあるセレブリティ-の感性」を嫌って「聴きに来てくれるお客さんたち」のために職業としての歌を選択した、典型的な中産階級男子です。

他にも、さだまさしさんは長崎で材木商はじめとして色々な商売を手がけ、浮き沈みの激しい人生を過ごした父親をもつ中産階級男子。財津和夫さんは福岡の競輪場の中で食堂を営んでいた家の息子でこれまた中産階級男子だったのです。

【知的感性を受け継ぐ素晴らしきJ-POP女子たち】

それでは、筆者の目から見たニューミュージックの知的感性を正統的に受け継いでいるJ-POP女子たちの中から、紙面の関係で今回は3名だけご紹介させてください。

川嶋あいさん。実父が行方不明という状況下で生まれ実母もあいさんが3歳のときに死亡。福岡市の児童養護施設で育ちますが建設会社を経営する中産階級の川島家に引き取られます。その後、養父もあいさんが10歳のときに、養母もあいさんが16歳のときに亡くなり天涯孤独となりますが、そのような生い立ちであるからこそ、ストリート時代の『明日への扉』、川嶋あい名になってからの『旅立ちの日に…』といった、寂しい気持ちの人を癒す歌が歌える、ニューミュージックの知的感性を受け継ぐJポップ女子です。アフリカの貧困層の子どもたちの実情に心を痛め、アフリカの各地に児童養護施設や学校を建設する活動の支援を、私財を投じてなさっています。震災をはじめとする国内の被災者の人たちへも温かい支援活動をつづけていらっしゃいます。職業としての歌は東京の四谷や渋谷の路上(ストリート)からで、この、「いざとなればストリートで歌ったってお金を投げ入れてもらえる」という点は、同じ芸能という分野でもモデルさんや俳優さんといった、「セレブリティ-から舞台を用意してもらわないと成り立たない業種」とは違う、「職業としての歌」の分野の特長です。

一青窈さん。台湾人の資産家を父親に、石川県出身の日本人を母親に持ち、台湾で生まれ日本で育ちますが、小学校2年生のときに父親を、高校生のときに母親をガンでなくします。川嶋あいさん同様「寂しい人」の気持ちに寄り添い、デビュー前の活動は主に福祉施設でのライブが中心でした。環境問題にも強い関心を持つ「最後の中産階級」世代に属するJポップ女子です。
<参考:『インタビュー“日曜日のヒロイン”第350回 一青窈』(2003年2月16日付日刊スポーツ)>

MISIAさん。長崎県対馬市の出身で、地域医療に従事する外科医で病院長の父と小児科医の母を持つ中産階級女子です。地方の一般庶民の人びとが「医療難民」にならないようにと努力されたご両親のもとで育ち、ご本人は「職業としての歌」を選択なさいました。その根底にある思いはご両親と同じで「市井の民の希望」となることです。5オクターブの音域を持つ圧倒的な歌唱力をもってしての歌手活動と、アフリカをはじめとする途上国の支援活動で忙しい日々を送っていらっしゃいます。

いかがでしょうか。このテーマは筆者のライフワークの一つでもありますので、折に触れてまた同様の視点に基づいたコラムを書かせていただければと考えております。


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