2009年にテレビドラマ『侍戦隊シンケンジャー』のシンケンレッド役で俳優デビュー以降、順調に実績を積み重ね今や20代の役者さんを代表する存在となった松坂桃李(まつざか とおり)さん。その素敵なお名前は、紀元前に司馬遷によって編纂された中国の歴史書『史記』に著される故事成語に由来するものです。


【桃李(とうり)もの言わざれども、下おのずから蹊(こみち)を成す】

『史記・李将軍列伝』にある「桃李不言 下自成蹊」(桃李もの言わざれども、下おのずから蹊を成す)という言葉は、「桃やスモモは何もしゃべらないけれど、実が美味しいのでその木の下には自然と人が集まってくるため、いつのまにか道ができる」という意味であり、“雄弁・多弁でなくても中身が立派で人格が高い人のもとには、その人を慕う人たちが集まるため自然と道ができる”ことの例えとして使われます。松坂さんのお父様はこの言葉をご存知で、息子さんに「桃李」という名前をつけたようです。お気づきかもわかりませんが、わが国にある私立学校の成蹊学園は、この言葉の「蹊を成す」という部分から引用して、「成蹊」という学校名をつけています。

このことわざは、中国の前漢時代の将軍であった李廣(りこう)という人物が、泉を発見すれば部下に先に水を飲ませ、食事は下士官たちと共にし、みなが食べ始めるまでは自分の食べ物にはけっして手をつけないという人格者であったために司馬遷が桃や李の木に例えて評したものであるため、この言葉に出てくる桃やスモモは何処の場所にあった木であるかが必ずしも特定されているわけではありません。だから正確にいえばこれは「故事成語」というよりは「格言」という表現を使った方がいいのかもしれません。けれども『史記』の中にはその昔中国で実際に起こった出来事や歴史上の実在の人物にまつわる教訓である「故事成語」も多くおさめられています。


【四面楚歌(しめんそか)】

四面楚歌とは、『史記・項羽本紀』の故事による言葉で、周りを敵や反対者に囲まれて孤立し、助けのない状態のたとえ。孤立無援の状態のことです。

<参考:『語源由来辞典』>

楚の国の項羽(こうう)が垓下(がいか)という所に追い詰められ、漢軍に周囲を取り囲まれます。項羽は夜更けに四方を囲む漢の陣から項羽の故郷である楚の国の歌をうたう声が聞こえてくるのを聞いて、「外の敵に楚の人間がなんと多いことか。漢軍は既に楚を占領したのだな」と悟り、絶望したといいます。そこから、敵や反対者に囲まれて孤立した状態のことを、「四面楚歌」と言うようになりました。


【国士無双(こくしむそう)】

その項羽と、前漢の漢王となる劉邦(りゅうほう)が激しい天下争奪戦を繰り広げていた頃、その才能が認められていなかった韓信(かんしん)のことを、位の高かった蕭何(しょうか)が評して「韓信は国士無双であるから失ってはなりません」と劉邦に進言した史実に基づく故事成語が「国士無双」です。『史記・淮陰侯(わいいんこう)列伝』には「信の如き者に至りては、国士無双なり(韓信のように素晴らしい人物は、国士無双です)」と蕭何が言う下りがあり、ここから「天下に二人といない人物」、「一国中で並ぶ者がいないほどすぐれた人物」のことを意味するようになりました。

<参考:平明四字熟語辞典>


【背水の陣(はいすいのじん)】

その韓信は、趙との戦いで寄せ集めの軍隊をまかされたとき、通常では不利とされる川を背にした陣形をしきます。この布陣は兵士たちが退けば溺れ死ぬしかない形であるため、趙の軍は漢軍のこの陣形を見て大笑いしますが、死に物狂いで戦うしかない状況を作られた漢軍の兵は見事勝利をおさめます。このように“失敗の許されない状況で全力をあげて事にあたること”を、「背水の陣」を敷く、「背水の陣」で臨むなどと言うようになりました。これも『史記・淮陰侯列伝』の故事による言葉です。

<参考:『語源由来辞典』>


【松坂桃李さんの「桃李」には別の意味もあった】

このように奥の深い「故事成語」は『史記』のみならずいろいろな中国の古典に著され今日でも日常の会話で繁用されており、中国の歴史と文化のスケールの大きさ・深さを感じさせてくれます。蛇足ですが、松坂桃李さんの「桃李」には、お母様が『古今著聞集』という日本の鎌倉時代の民話集のなかにある「桜梅桃李(おうばいとうり)」という言葉からとった意味もあるとのことで、「桜も梅も桃もスモモも、みんなそれぞれに違って、みんな素晴らしい。だから、自分らしさを大切にしてほしい」というお母様の願いが込められているそうです。なんて素敵なお名前なのでしょうか。


絶版・品切れ本を皆さまからの投票で復刊させる読者参加型のリクエストサイト
復刊ドットコム

great-wall-of-china-458862_960_720

(女子のお悩み解決コラム -WomanNews ウーマンニュース-)