現代は、「青春」が見えにくくなった時代かもしれません。少し前までのわが国には、“中産階級”と呼ばれるぶ厚い層が存在していたため、13歳くらいから30歳前後くらいまでの女子・女性は、等しく「青春」を謳歌することができ、それこそが日本社会の活力の源であったと言い切っても大袈裟ではないと思います。格差のない本当にいい時代だった1970年代、ジャーナリストの筑紫哲也さん(故人)が“若者たちの神々”と呼んだ小田和正、荒井(松任谷)由実、財津和夫、さだまさしといった中産階級の子どもたちがその独特の感性でもってわたしたちに共通の「価値」を提示して見せ、それはいつの間にか「この国の価値」としてつい最近まで定着することになります。

「青春は素晴らしい」という価値観がそれで、大衆文化の世界においてはあのあまりにも偉大な“宮崎アニメ”と呼ばれるスタジオジブリの長編アニメーション作品が、その集大成として結実することになるのです。筆者は、今を生きる女子のみなさんにも「青春を諦めてほしくない」という一心から、ジブリの長編アニメ作品の中でも『耳をすませば』と『コクリコ坂から』という二つの“青春ものの傑作”をご紹介することによって、最近ついつい忘れかけてしまっている“青春の素晴らしさ”について、再認識していただきたいなと思うのです。


【小説家が夢の団地っ子の雫とヴァイオリン職人が夢の古物商の孫・聖司の青春『耳をすませば』】

1995年公開の近藤喜文監督作品『耳をすませば』は、柊あおいさんの漫画作品を原作として東京・多摩東部の街を舞台に14歳の月島雫と15歳の天沢聖司の恋を描いた青春アニメ映画の名作です。この物語が何故これほどまでにわたしたちの心を打つのかと考えるとき、それは、「恋も青春も、誰もが等しく謳歌していい、謳歌すべきもの」であった、格差がなかった頃のわたしたちの社会を描き切っているからだと言うことができると思うのです。

白い配水塔がそばに立つ団地で暮らす雫と、細々と手製のヴァイオリンを作りつづける古物商・西司朗老人の孫・聖司。そもそもこの設定自体が今ではもう「青春謳歌どころではない境遇の子どもたち」なのです。今や、授業料の高い塾に2つも3つも通って高収入の職業を目指す子は、高級分譲マンション住まいのグローバルエリート・サラリーマンの子でしょうし、零細なアンティークショップなんて、今では経営が成り立ちません。現代の雫や聖司は、もっぱら「正社員になる」という将来を目指して青春をおしころしながらバイトと貸与型奨学金で何とかやっと大学に通う学生になっていることでしょう。


【高校2年生の松崎海と3年生の風間俊。みんなが平等に“日常”の喜びを分かち合えた戦後の青春】

佐山哲郎原作、高橋千鶴作画の漫画作品を土台にして2011年に公開された宮崎吾朗監督作品『コクリコ坂から』では、登場人物たち一人一人の本質的な平等性がより顕著に表れています。医者の血筋である主人公の松崎海も、海の父親が亡き友人から引き取ったものの経済的な理由から今の養父に託したという海の高校の1年先輩の風間俊も、みんな“人として平等”だった時代の青春物語です。

戦後の横浜の坂道を俊がこぐ自転車の荷台に乗って駆け降りる海。かつて医院だった自宅を下宿屋に改造し、下宿人たちの夕食を作るために帰りを急ぐ海には俊の自転車をこぐ背中がどれほど頼もしく思えたことでしょう。この、どうということのない日常の喜び。これこそが人間の本当の幸せですね。好きな人のそばで生きていられることの幸せ。贅沢はできなくても食べるものに困ることはない幸せ。「足るを知る」と言いますが、そんな日常をかけがえのない「幸せ」として感じることができた戦後の社会。『コクリコ坂から』はそういったかつての日本社会の青春を描いた作品であり、この感じの光景は20世紀を最後にわが国では見られなくなりました。


【それでも女子のみなさんには、青春を諦めないでほしい】

ただ、筆者が今回『耳をすませば』と『コクリコ坂から』を取り上げたのは、二度と帰らぬものを懐かしんで悔やむためではなく、今を生きる同胞女子のみなさんにも、それでも青春を諦めないでほしいという一心からです。『耳をすませば』の20世紀末も『コクリコ坂から』の戦後も、青春にとっての制約はあったわけで、その中でいかにできるだけのことをやり切るか。雫や海から、女子のみなさんにはそれを学んでほしいのです。

2015年は、お笑い芸人の人が芥川賞を受賞して話題になりました。これは象徴的な出来事だと思います。お笑い芸人という職業は、今のわが国で大多数の側にいる“ド庶民の子”たちが経済的なチャンスを手にするための一つの有効な手段です。そこで成功した人がそこでの体験を土台にして自らをさらに1ランク、アップグレードしたわけです。「その時代でもできること」から「その時代だからこそできること」への発想の転換です。

2010年代を生きる女子のみなさん、今だからこその青春を見つけてください。バイトしなければ大学に通えない時代であるなら、バイト先で出会った彼と夢を共有するのも有りです。理系のテクノロジーを持たない者にクリエイティブな仕事は用意されていない時代であるなら、経験と直感で創造する“職人”の道で自己実現するのも有りです。時代の制約を見極め、その中にある突破口を見つけることで、2010年代の雫に、海に、なっていただきたいと願っています。




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(女子のお悩み解決コラム -WomanNews ウーマンニュース-)