小熊英二さんという歴史社会学者の独特な視点には、いつもハッとさせられます。4月28日付の朝日新聞・「論壇時評」欄に掲載された小熊さんのコラム『日本の非効率「うさぎ跳び」から卒業を』では、かつて昭和の日本の学校の体育の授業や部活動で足腰を鍛えるために最適ともてはやされた「うさぎ跳び」という運動が実は関節や筋肉を傷めるおそれが大きい「見当違いの努力」であったことになぞらえて、いまだに日本の社会にはびこる長時間労働や職権の乱用に泣き寝入りする姿勢といった見当違いの努力・見当違いの忍耐についての批判を展開しており、大変興味深い内容でした。

ところで、小熊さんは社会的なレベルでの批評を展開していますが、筆者の身近なところでは、非正規の立場で働く女子のみなさんの中に、仕事をするうえでややもすると見当違いの努力をしている人がいるような気がしたため、今回はそんなお話しをさせていただきたいと思います。


【劣化し分断された今のわが国の職場では非正規女子が無駄に愛想よくしようとするのは見当違いの努力】

昭和の頃の、職場の同僚がほぼ全員正社員であった時代であれば、“仕事はあんまりできないけれど愛想がよく、お茶出しやコピーとりを嫌な顔ひとつせずに笑顔でやってくれる職場の花のような女子”も、それなりに報われたことでしょう。3年、4年と勤め続けるだけでお給料は上がって行ったし、中には部長さんや次長さんに気に入られて彼らの息子さんのお嫁さんになって専業主婦として平穏な人生を送った人も多かったのではないでしょうか。

今は違います。非正規で働く女子がそんな愛想をふりまいたり、職場がなごやかな雰囲気になるようにこころがけたりしたところで、時給が上がるわけでも人事評価の体系が存在しているわけでもありません。非正規はしょせん非正規。悲しいことではありますが、社員の眼中になどないのです。そんなことで「うさぎ跳び」をして無駄に疲れるくらいなら、業務が終ったらさっさとうちに帰って別の仕事に励みましょう。


【自分が持つ特殊技能を非正規雇用主のために必要以上に発揮することも見当違いの努力】

非正規従業員といっても、家庭の都合などで正社員や自営業をやめた人の中には、人格的にも正社員より高潔で、能力的にも正社員以上のものを持っている人が、実は少なくありません。しかしだからといって、それを正当に評価して時給に反映させる制度が存在しない以上、非正規で働く人がボランタリーな職能発揮をしてさしあげる必要はありません。非正規雇用主は、貴女が働いた時間に対して最低限の賃金を払っているだけだからです。ただ、人間ですからお金にはつながらなくても自分の特殊技能を人に見てもらうことによってやり甲斐を感じることができるという面はあります。ですので「自己実現」や「アイデンティティー」の範囲内で、自分自身のために必ずしもお金につながらない能力発揮をすること自体は、必ずしも「うさぎ跳び」だとは言えないのかもしれません。


【有給休暇は1日残らず使い切りましょう。未消化で失効するなど愚の骨頂です】

最後に、非正規女子が卒業すべき「うさぎ跳び」の3つめです。有給休暇は1日残らず使い切りましょう。未消化のまま失効するなど愚の骨頂です。こうして書いてくると、筆者は何やら味もそっけもない無機的な職場環境を推奨しているかのような誤解をあたえてしまうかもしれませんが、そうではないのです。貴女の職場に、「○○さんの日頃の仕事ぶりを見ていて、もしよかったら来月からは正社員として働いてもらいたいと思っているのですが、意思を聴かせてくれませんか」と切り出す管理職が居るようであれば、バリバリ働いてさしあげればいいのです。が、現実のわが国の劣化した職場環境にそういう管理職はほぼ皆無ですし、そのような制度もありません。


だからこそ、先輩としてみなさんに“無駄骨”になる生き方を推奨するわけにはいかないのです。非正規女子のみなさんには、どうかみなさんの能力とやる気を、“報われる”分野で発揮されることを願ってやみません。



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(女子のお悩み解決コラム -WomanNews ウーマンニュース-)