歴史社会学者で慶応大学教授の小熊英二(おぐま えいじ)さんは19世紀英国のディズレーリ首相の表現を引用して、「現代の日本も“二つの国民”に分断されている」と言います。小熊教授によれば「第一の国民」とは企業・官公庁・地域の名士団体などの正社員・正職員・正会員とその家族。

「第二の国民」とは、それらの組織に所属していない「非正規」の人々。筆者のコラムを愛読してくださっているかたがたの中にも多い「非正規シングル女子」のみなさんは小熊教授の言う「第二の国民」の中核をなし、この人たちにたいして日本の社会は「冷たい」ことを、小熊さんは指摘しています。

【東京新聞にも掲載された横浜市男女共同参画推進協会のアンケート調査結果】

この「非正規シングル女子」のかたがたが日々の暮らしでどれほど困っているかを真摯に追跡したのが2015年10月に横浜市男女共同参画推進協会が行ったWEBアンケート調査です。

35歳から54歳までの非正規シングル女性を対象に、彼女たちが抱えている悩みと必要としている支援について赤裸々な「生の声」を聴きとることに成功しています。東京新聞にも掲載されたこの画期的なアンケート調査の結果について、今回は『非正規シングル女子が本当に必要としているサポートは何?』と題してお話させていただきます。

【非正規シングル女子が悩み、不安に感じていることは】

アンケートではアルバイトや契約社員、派遣社員といった立場で働く非正規シングルで子どもがいない女子の人たちが常日頃から悩み、不安に感じていることを選択式と記述式で答えていただいています。国の調査があるシングルマザーなどに比べてこれまでほとんどと言っていいくらい「生の声」が聞こえてこなかった非正規シングル女子たちの実態に迫る非常に貴重な資料です。列挙してみましょう。

・アルバイトで月に22日出ても月収が手取り10万円程度。時給が低すぎる。スキルアップ費用も工面できない。
・1年ごと(1年未満も多数)の契約でこの先何年働けるか見通しが持てない。
・仕事をかけもちしているが、家賃を払ったらおわり。
・社員、契約社員以外の従業員は職場会議に参加できず懇親会や歓送迎会にも呼ばれないため、雑談もしづらいし職場で何が進行しているのかわからず不安。
・絶対的に賃金(時給)が低すぎる。母がなくなり年金が途絶えたら、パートナーのいない自分に生活して行くことは不可能。生活保護受給者を「甘え」呼ばわりする風潮の社会では居場所すらない。
・賞与も退職金もないため、それがあって当たり前のような社員の態度、報道の姿勢などにふれると「自分の人生って一体何なのだろう」と思ってしまう。

こういった生の声は、行政府による調査等ではあまり表にされることがありません。次の節ではその理由について考えてみましょう。

【政界もメディアも「第一の国民」に独占され、「第二の国民 非正規シングル女子」の存在すら見えていない】

男女共同参画推進協会のアンケートでこれほどまでに悲痛な声をあげている非正規シングル女子たちのことが、わが国の政界やテレビ局に代表されるマスメディアには見えているのでしょうか? 見えていないことは、議論を挟む余地すらないくらい明らかですよね。

どうして見えないのか? 
小熊教授によると、「この国は政界もメディアも第一の国民に独占され、その内部で自己回転しているため、第二の国民である非正規シングル女子のことなど、そもそもその存在自体を認識していないから」だということになります。<参考:2016年5月26日付「朝日新聞」朝刊掲載 小熊英二『二つの国民』>

そのいい例として小熊教授は国が少子化対策として官邸主導で導入した「3世代同居」優遇税制を挙げており、総じて持ち家率が高く収入が多い3世代世帯をこれ以上優遇したところで恵まれた層をさらに優遇するだけであり、少子化対策としての効果はないという事例を、朝日新聞記者である堀内京子さんの分析を引き合いに出しながら論じています。

【非正規シングル女子が本当に必要としているサポートは何?】

このように政界からもメディアからも認識すらされていない「第二の国民 非正規シングル女子」たちが、(国に言っても届くのかどうかわかりませんが)本当に必要としているサポートにはどのようなものがあるのでしょうか。WEBアンケートで実際に多かった生の声を紹介しましょう。

・低家賃の住まいを初期費用や連帯保証人なしで貸してくれる住まいのサポートシステム
・シェアハウスのマッチングや支援
・無料で気軽に相談できる充実した健康相談
・国民健康保険を使っても完治までには自己負担額が万単位になるような病気をしたときの経済的支援
・ただ話を聴いてくれる窓口
・居場所を提供してくれるようなスペースのある公営の図書館
・シングル女性に特化したハローワークや就職相談窓口
・フリーランスの人向けの仕事相談、出勤の形式をとらないでもできる仕事の紹介(財務・営業など)。
・高齢の親が介護を必要とするようになった場合の相談窓口ならびに窓口に関する情報提供
・健康維持のために誰でも利用できる低料金の公営スポーツ施設。
・食事の提供が格安で受けられる場所

これが今のわが国の現実の姿なのですね。このような非正規シングル女子の心の叫びを自分のこととして感じることができる人を行政に携わる人の中に一人でも二人でも増やして行かないことには、小熊教授が言うように「日本社会の未来が左右される」ことになるのは明らかでしょう。

「第二の国民」の象徴である非正規シングル女子へのサポート政策の推進は、“これ以上優遇してさしあげる必要のない第一の国民への優遇政策の中止”を断行してでも、急いて着手する必要に迫られた問題ではなかろうかと筆者は思うのです。



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(女子のお悩み解決コラム -WomanNews ウーマンニュース-)