都市部の企業で働いていた地方出身者が、生まれ育った故郷へ戻る「Uターン現象」。環境保全型農業に取り組むため、あるいは子どもの健康や教育のために、自然環境に恵まれた祖父母が暮らす地方へ移住する「孫ターン現象」。都会での生活に疑問を感じて一念発起しUターンや孫ターンを決行する女子が、年々増えているようです。

ただ、こうして女子が勇気と夢をもって移住を決行しても、それが行政や自治体の思惑通りに「地方創生」にすんなり繋るかというと、これがそうでもないというのが現実のよう。何故そうなのか。その理由について考えてみましょう。
<参考:石川県羽咋(はくい)市ホームページ/「孫ターン」の用語解説を参照>


【地方には高齢者介護や看護以外の仕事がなく、介護看護系有資格ターン者以外は定着しない】

NHKテレビでは2015年11月2日放送の『人生デザインU-29』(Eテレ)や同年12月14日放送の『おはよう日本』(総合)で、大阪から祖父母が暮らす徳島に「孫ターン移住」してきた28歳の看護師の女性の話題を取り上げました。この女性に関しては、全国的に人手不足で引く手あまたの看護師ですから、孫ターン先の徳島の田舎でも就職はすんなりと決まり、おばあさんから農業や手料理などを教わりながら、たしかに楽しそうに暮らしてはいました。
ですがこの女性の例を多くの一般的なわが国の女子たちにあてはめて語ることが出来るのでしょうか?

現実の問題として、わが国のほとんどの「田舎」には高齢者介護や看護といった医療福祉系の仕事以外、相応の現金収入を見込める仕事はそうはありません。この女性のように看護師の資格を持つ人ならまだ、看護師として働きながらおばあさんから農業を教わるといった暮らし方も可能ですが、たとえば経理事務やITのスキルを得意とする人に、孫ターン先でこの女性のような暮らし方ができるのかと言われると、疑問符がつきます。
地方の過疎地域においてかつて現金収入を提供してくれていた役場も農協も郵便局も、地元の名士が営む商店も、今や合理化と「物離れの経済」の浸透で賃金を支払って人を雇うどころではないからです。


【自治体ぐるみで応援しているような場合でも、大抵の場合は農業に就くことが交換条件になっている】

自治体が経済的な面で全面的に孫ターンを支援している市町村はありますが、その場合は大抵が、「新規就農者」のための支援です。NHKが取り上げた女性のような「趣味の農業」ではなく、「生涯の職業としての農業」を選んだ人たちのための支援制度が主流です。
農業にたいしてそこまでの情熱と覚悟をもった若者がUターン・孫ターン希望者の何割存在するのかという問題についてあらためて考えるならば、ターンしていった若者がその土地に定着する割合も、自ずと推測できるかと思います。
島根県のように「半農半エックス」(エックスはITでも看護でも何でもオーケー)のターン者に助成金を出すことで農業就業者の減少に歯止めをかけようとしている自治体もありますが、これにしても農業を生涯の天職としてもらうことに変わりはないのです。
<参考:NHKテレビ『人生デザインU-29』(2015年11月2日Eテレ)、『おはよう日本』(2015年12月14日・15日総合)>


【東京でさえギリギリ生きるだけの非正規の賃金なのに故郷に何があるのかと、同世代男子たちは思っている】

地方創生の問題というのが、実は都市部の若者の賃金水準の改善の問題と切っても切り離せないのだということについて、分かっている人はどれくらいいるでしょうか。田舎も都会も、それぞれ単独で存在しているわけではないのです。

前述した看護師の孫ターン女性も、「いい人がいたら結婚したい」と言っていましたが、女性が今暮らしている地域に同世代の男性などほとんどいないことは言うまでもありませんね。なぜ同世代の男性がいないのか。高校卒業を機会にして多くの若者が一旦都会へ出て行くことは、わが国の東京一極集中の社会構造上、いたしかたない面もあります。問題は彼らが何年か都会で働いてみたうえで、「故郷に帰って生きてみるのもいいかな」という気にさせるようなものがない、という点です。

今や働く人の4割以上は非正規雇用です。非正規雇用の20~30代男性の既婚率は2010年の内閣府調査で僅か6%にも満たないのです。
つまり、看護師女性のような「一念発起孫ターン女子」がターン先の地方で結婚し、子どもを生み育てたくても、対象となる年齢層の男子たちの多くはその日その日を暮らすので精一杯といった程度の非正規雇用の賃金しか都市部の勤務先で貰えていない。東京にいたってそんなありさまなのに、故郷の田舎でどうなるというのだという猜疑心を、この世代の男子たちの多くが根底に持っているのです。


【一念発起ターン女子の気概頼みだけでは地方創生は難しい。経営体リーダーたちのマインド変革が必須】

筆者は、地方には元気になってほしいと切に願っている者の一人です。ただ、一念発起したUターン女子や孫ターン女子の気概だけが頼みというのでは、あまりにも能が無さすぎます。都市部の経営体のリーダーたちは、非正規雇用という都合の良いシステムで人を安く使えることに慣れきってしまった自らの甘ったれたマインドが、いずれは少子化と労働力不足という形で自分に跳ね返ってくることに気づくべきですし、地方の経営体のリーダーたちは、愛すべき地元に農業と介護福祉産業しかないということが、自分の子孫たちにたいしておかしてしまった怠慢であったという事実に気づくべきなのです。そういった怠慢は放置して、自分に都合のよい保守的な考え方ばかりを唱えて、若い人たちのやる気を削いでこなかったでしょうか?


Uターン女子や孫ターン女子の勇気と行動力には敬意を表するとともに、できることで応援したいとも思っています。が、女子たちがいかに素晴らしくても各経営体でリーダーの立場にある筆者の世代のおじさん(おばさん)たちがそのマインドを変革してくれないことには、地方創生は絶対に実現しません。
日本が最高に良かった時代も経験することができた筆者たちアラ還世代以上の者たちは、もうそろそろ若い人たちや子どもたちの未来のために働くということを、心がけないといけないのではないでしょうか。




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(女子のお悩み解決コラム -WomanNews ウーマンニュース-)